NPO化学物質による大気汚染から健康を守る会

    =====ごく新しい重大問題につき研究活動報告2=====   2016 Aug. 5

                (独)環境保全再生機構地球環境基金と高木仁三郎市民環境基金の助成研究

    特定非営利活動法人 化学物質による大気汚染から健康を守る会(略称 VOC研)

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1.学会に参加して   2.日本環境化学会25回討論会に発表  3.日本臨床環境医学会に発表・        4.高木基金の2016年度研究成果報告会   5.農薬も徐放製品に変わった  6.外国では

第1章 学会に参加して                      冨田重行理事 

  今号では6月の学会参加報告集です。フィールドワークが重要なのに最先端のフィールド・イソシアネートのように毒性の強い有機窒素化合物の環境汚染に対応した問題意識がないようでした。年配の研究者はさすがにイソシアネートが環境汚染の対象物としてあがってきたことに注目されましたが他の研究者はこの化合物自体を知らないようでした。ケムキーて測定することの大事さを実感し関心を持って研究対象にされることが新潟まで来た意味なのだと、ポスター会場や交流会場でいろんな人に話できました。文献試料を読み取れるように呼んで頂ければ出前講演に飛んで行きます。


第2章 日本環境化学会25回討論会に発表・参加して

2.1大気中VOCのその場分析による連続観察○冨田重行,内田義之,柳沢幸雄, 加藤晶子, 斎藤真由美, 斎藤良一, 津谷裕子, 森上展安

大気中のVOCのその場分析による連続観察について通称VOC研究会から報告します。材料機能の発展→含有する新合成有機化合物。 製造・利用・廃棄リサイクル方法の変化→VOCs種類の変化。人体への影響機序の変化
空気汚染発生と伝播状況の変動。 対応する分析方法の選択・利用。簡易分析器のその場連続測定の利用

3種類の連続観察機器VOCモニター、呈色試験紙を用いて有毒化学物質をモニターするケムキー、セイフエアのバッジ式比色試験紙を使用した。体調観察の指標として連続式血中酸素濃度、心拍数、血圧モニターを用いた。

VOCモニターは携帯型の簡易クロマトグラム。VOCを吸着させ、吸着管を加熱させて精製空気でVOCをパージしてガスクロ分析を行う構造のものである。存在している汚染物質全体の様子を見る。(トルエン/キシレン/エチルベンゼン/スチレンモノマー /パラジクロロベンゼン/TVOC(総揮発性有機化合物) 比較が基本。標準試料で種類と濃度をチェック。やや取扱いが難しい。複雑な操作を自動化しているのでごく精密な機械である。

Honeywell社の比色式毒性気体分析器のケムキーTLDはこのようなものである。日常生活でよく見かけるウレタン製品(自動車のシートパッド、マットレス、シューズ等)の原料であるイソシアネート*1系 の化学物質(TDI: トルエ ンジイソシアネート、MDI: ジフェニルメタンジイソシアネート、HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート等)を使用する工場の製造現場で、作業環境の常時モニターとして使用されている。同社の高感度イソシアネート検知器(260ppb)は、ガスクロマトグラフィー等による分析機器に比べて安価で、常時モニターが実現できる。 ケムキーの原理は呈色試薬を塗布した化学テープに測定ガスを通過させ、対象ガスと反応してできた呈色スポットの濃度を光電計測してガス濃度を出す。

測定例1. 保守のため屋根塗り替えした日のその住宅室内のVOCモニターのクロマトグラフです。時間変動が大きく、工事が開始されると高くなり、終了すると下がっていることがわかります。 前のクロマトと同じ工事を行った日を左端にした室内のTVOC濃度の約6日間の記録。屋根塗装中以外には、室内はほぼ一定に保たれている。 塗装工事の行われた日には、作業中だけ閉め切った室内も高濃度になる。外部から侵入した汚染は、約600μ/m3だけの濃度を増加させた。工事後3日目までやや影響が残っている。



 

 

ケムキーを用いて毒性ガスをモニターした。屋根塗装中の6時間だけイソシアネートが検出されている。その前日の16時ごろに準備作業中でうっすらとイソシアネートが検出。塗装の翌日の12時ごろにまた少し検出された。TVOCが一度上昇している時間に対応している。





測定例2 昨年夏、80m離れて他の家の陰になる地点に住宅新築が始まった。基礎工事の日に、それとは知らず窓を開けて昼寝していたので激しい喘息よう発作で病院に運ばれた。分析したのは工事がだいぶ進んでからで外装や内装の工程の頃らしい。TVOC濃度と主な成分比率である。測定例1の屋根塗装に比べて、その他の成分が少なく普通の有機溶媒成分が多い。祭日は少なく、作業日が高濃度である。夜間の気温低下による濃度増加の他に早朝の作業開始での増加、昼休みでの減少、夕方の増加と夜間の残留が認めせれる。低濃度の時と最高濃度では10倍以上の違いがあった。

作業前の早朝と昼休みにはVOCが少なく、作業時間にはVOCが増加した。特にトルエンとエチルベンゼン濃度が高かった。  ケムキーでのイソシアネートの分析テープには、作業時間早朝と夕方終了時間から後の夜間にかけてだけ飛来し、昼前後に少なくて、夜間に無くなっていることが記録されていた。工事が大体終了したころでも、作業時間内に、短時間だけうっすらと飛来することもあった。




測定例3. 周辺住民の健康被害が問題になった産廃処理場で、自治体による精密分析が実施され、そのサンプリング時間を区別した精密サンプリング場所でのTVOCの連続記録である。サンプリングした日にも、その時間になると急に濃度が低下したり、サンプリング後に急に濃度が増加したりして不自然であった。サンプリングした時のTVOCは、通常作業日の最高濃度の20分の1であった。

サンプリングの日のケムキーのイソシアネート分析記録テープである。朝9時に分析作業者が現場に到着した時まではうっすらとイソシアネートが検出されていた。サンプリング時間中にはイソシアネートは検出されず、サンプリング終了後にしばらくしてから明瞭に検出され始めた。TVOC上下と平行な時間依存性の変化をしていた。クロマトグラフで見ると、通常の日に比べて検出できた化合物ピークも少なかった。

測定例4. 田園地帯に囲まれた住宅地で 今年のゴールデンウィーク 100m程の所の田んぼに沿っているつくば市の住宅地内の家。室外、窓開けで重い体調異変。 室内でも次第に体調悪化。クロマトグラフでのTVOC変動と成分。自動車排気ガスによる通常の大気汚染の主成分であるベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンの合計濃度に比べて、「その他」化合物の割合が大きい。晴雨の影響はない。昼夜の変動も不規則。 深夜2時~4時頃から短時間希薄なことが多い。GWが終えてから低下の傾向。ケムキーでのイソシアネート分析記録。15分ごとに●1つ。測定を始めた夕方に濃かつた。 その後一時薄れた。1時間ほどごく薄い時があった。濃淡はあるが汚染が続く。

VOCモニターでのクロマトグラムを見てみると、イソシアネートの濃度の高いときにVOCのチャートは低く、逆にイソシアネートが低いときにVOCが多くなっていた。同じようにイソシアネートが高く検出され体調が酷く悪い日のVOCモニターのクロマトグラムはピークが低くなっている。あくまでも一つの仮説であるが、イソシアネートを含むマイクロセルの飛散によりVOCの吸着、減少という事態が起きている可能性がある。建築現場などから飛散するイソシアネートは作業時間中のみ高濃度に検出されるが作業が終了すると徐々に低下する。しかし、田園地帯で観測されて発生源が明確でないイソシアネート汚染は高濃度で継続され、ゴールデンウィークが過ぎてから徐々に減少していった。農薬の有効成分の徐放効果を狙ったウレタンなどのイソシアネートを原料としてマイクロカプセルの飛散が起きているのでないか推定している。






以上の4つの測定事例について報告した。

その2 包接材使用日用品からイソシアネートの検出   ○津谷裕子,冨田重行,冨田学,内田義之,石橋慶子,柳沢幸雄,森上展安


包接材使用日用品からイソシアネートの検出

近年、日用繊維製品に付加価値を高めるための香料や農薬その他の成分の効果を長持ちさせるために、それら成分をマイクロカプセルその他の包接材に包んだ製品が開発され、普及した集合住宅地などではそれによる体調不良の訴えが生じている。室内と環境調査で、イソシアネートが検出され、包接材に含まれるポリマー成分による可能性が大きいので報告する。

被害を訴えるものの症状は表のようであった。家族内でも暴露初期には無症状で、ある時期またはあるイベントを境に発症する者も多い。アレルギーと思われ、即時的反応が現れるとともに、遅発性または持続性の症状もある。産業医に香料原因と診断された。専門医の診断で中枢神経障害、呼吸器アレルギーであった。柔軟剤の匂いによる健康被害の訴えを簡易分析と文献資料の両面から調査した結果、実際の健康被害原因物質は、ニトリルなどの合成香料の影響もあろうが、香料等の徐放剤・包接材に含まれているかその分解によって生じたイソシアネートの可能性があると考えられた。


異なった住宅団地の住民から相談を受けて、室内と環境を2種の簡易連続分析器で実地調査し、症状を聞き取った。 分析器は上図。クロマトグラフにより自動的に示されたTVOCと、普通大気汚染のトルエンなど主要4成分濃度である。トルエンなどの割合が多くてその他の化合物が少ない時と、ほとんど全部その他の成分が占める時とがあった。

今年の2月、1週間にわたり室外の同一地点からVOCモニターとケムキーで大気を採取して分析した結果です。VOC濃度測定値とイソシアネート濃度が高感度に記録されたテープの変色度合いを5段階で評価しグラフ化しました。同時にその時感じた臭い、天候・風向き、体で感じた症状を時系列で表示しています。(この時のテープがシート11です)これを見ると、VOCの値は時間と共に激しく変動していますが、イソシアネートはゆっくりとしか減衰せず、ほとんど途絶える事無く大気を汚染していることが分かります。イソシアネートが消滅しにくい現象については更なる検討が必要です。



ケムキーのシアン化水素検出テープで調べると、室内空気にはないが、室外ではうっすらと存在していることが記録されていた。有機シアン化物がさわやかな香りで柔軟剤などの香料に適しているという特許も出ているので、それらが関連しているかもしれない。イソシアネートテープでも同様に、室内空気にはないが、室外ではうっすらと存在していることが記録されていた。

 シート8のイソシアネートグラフの元になるテープです。この様にほとんど途切れる事無くイソシアネートが検出されています。 約50km離れた別の市でも、近隣から吹き寄せられる柔軟剤の匂いが強く室内にも入り込み、体調が悪化して長期入院した、退院したが苦しくてたまらない、という訴えで、匂いを嗅いでほしいというので調べに行きました。家の外でも確かに臭いましたが、その時には耐えられないほどの匂いではありませんでした。前の例ではイソシアネートは室内で検出されることはほとんどなかったのですが、ここでは室内が確かに苦しい空気で、しかも明白にイソシアネートが検出されました。玄関口の外の空気では薄くなりましたが自家用車中では室内と同じく検出されました。20kmほど離れた団地に帰り着くと、そこでは30mほど先でエクステリアの修理工事をしていたのでごくわずか検出されましたが室内では検出されませんでした。

 

柔軟剤の匂いで苦しいという被害例がその他にもあるのですが、合成香料はだいぶ前からたくさん使われていて、整髪料のトルエン誘導体やアルデヒド類で苦しいという人などもいましたが、最近の匂いで健康悪化して受診した話ほどには重症でなかったようです。実際に被害者に香水やオーデコロンを吹き付けてみても影響ないですし、昔のトイレ消臭剤の強烈なにおいの大瓶でも影響ないのです。 最近の匂いに関連して調べてみると、長く効果があるように揮発消失し難く包み込む徐放技術を応用していることが分かりました。徐放技術には色々な方式があるのですが、マイクロカプセルに包む柔軟剤香料の場合には、この写真のように繊維に強固に付着して、着用時に徐々に破けるようにはイソシアネートを使うと性能が良いという資料がありました。

前のスライドの「時間と気象によって変動」を説明

ゴールデンウィークの直前から土浦市の住宅団地で今までになく高濃度のイソシアネートが検出され続けています。

一時は分析器を疑ってみましたが、クロマトグラフ分析と見較べてみると、一般VOC汚染は極めて清浄で試験紙での干渉はないと思われました。さらによく見ると、イソシアネートが特に多い日中にはVOCは少なく、イソシアネートが低下する真夜中の短い時間にはVOCが増加しています。また、柔軟剤汚染地区のクロマトグラフで現れたような、柔軟剤と共通の特徴的なある大きなピークが現れません。(クロマトグラフはベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンの他はごくわずか。)死を思わせる苦しさ、朦朧となる意識と歩行不能の脱力感、胸の締付るような感じ・痛み、涙がにじむ、鼻が出る、声が出なくなる、少し遅れてヒーヒーいう咳こみ、気管かららしい粘液の嘔吐、・・・

比色テープ簡易分析器が示す強毒性の化合物、揮発性の範囲にはないかごく薄い強毒性物質の飛来があきらかです。

柔軟剤の匂いで苦しいという被害例がその他にもあるのですが、合成香料はだいぶ前からたくさん使われていて、整髪料のトルエン誘導体やアルデヒド類で苦しいという人などもいましたが、最近の匂いで健康悪化して受診した話ほどには重症でなかったようです。実際に被害者に香水やオーデコロンを吹き付けてみても影響ないですし、昔のトイレ消臭剤の強烈なにおいの大瓶でも影響ないのです。 最近の匂いに関連して調べてみると、長く効果があるように揮発消失し難く包み込む徐放技術を応用していることが分かりました。徐放技術には色々な方式があるのですが、マイクロカプセルに包む柔軟剤香料の場合には、この写真のように繊維に強固に付着して、着用時に徐々に破けるようにはイソシアネートを使うと性能が良いという資料がありました。

シクロデキストリンは分子構造が籠型で収着による包接分子として徐放技術に利用できる。微細なポリマー材料にして種々な成分を包接して広い用途が期待されて応用が促進されている。イソシアネートで結合したシクロデキストリンイソシアネートポリマーが香料やビタミン等の包接材として繊維加工に性能が良いことも報告されている。モノクロロトリアジンで結合する物も知られている。トリアジンもイソシアネートも含窒素有機化合物で毒性が強い。

農薬の有効成分の徐放技術としてポリウレタンなどのマイクロカプセルを用いた製剤技術が広まっている。

徐放剤、包接材原料の一部にイソシアネートが有効だという文献は多数あった。その一部をここに例示した。

柔軟剤の匂いによる健康被害の訴えを簡易分析と文献資料の両面から調査した結果、実際の健康被害原因物質は、ニトリルなどの合成香料の影響もあろうが、香料等の徐放剤・包接材に含まれているかその分解によって生じたイソシアネートの可能性があると考えられた。

外国ではイソシアネートが衣類や雑貨その他すべての製品について含まれているかの規制、300で溶媒抽出して分析するまでの規制があるとの情報(8)もあった。包接技術の用途の成長に際して消費者および地域の健康影響を十分検討する必要があると思われた。


第3章 日本臨床環境医学会に発表・参加して

体調と化学物質のダイナミック測定で原因診断に ○内田義之,冨田重行,野尻眞,柳沢幸雄,金子真由美,宮田幹夫,森上展安津谷裕子

1.

私共の環境は、年々新しく開発、大量生産された有機材料に取り巻かれ、それらで体調不良になっているのに原因物質究明が行われずに放置されています。

今回新しく導入した化学物質のダイナミックな観察、毒性気体の環境汚染状況を調べ、原因物質と発生源を推定して診断と対策に役立てることを考えました。

 

2.

体調不良者からの聞き取りで調査場所を決め経時的な測定をしました

測定器は携帯型簡易クロマトグラフ比色式毒性気体分析器です。

下の写真のように測定器を室内に置いて、窓の隙間に貼ったビニルシートの穴を通して、メーカー指定の太さと長さのテフロン製チューブで外の空気をサンプリングしました。

携帯型簡易クロマトグラフはJMS社のVOCモニターで、この図のような本体とパソコン画面で、10分間のサンプリングと分析とクリーニングの操作を1時間ごとに繰り返して、パソコン上に揮発性有機化合物すなわちVOCのダイナミックな挙動をエクセルデータとして記録するものです。

3.

比色式毒性気体分析器は比色試験テープを巻き取りながら経時的測定が可能なケムキーという分析器です。吸気口から導入したサンプル空気を比色テープに一定時間吹き付けて、変色の程度をレーザーで読み取って濃度をppb単位で表示するものです。

目的の化合物の種類によって、テープ種類と露出時間を決めます。

比色テープはいくつかの毒性気体に対応するものがありますが、今回我々は多くの場所で検出されたイソシアネートについてご紹介します。データとしては作業環境管理濃度よりやや低い濃度から表示できますが、この研究では環境で健康影響する薄い濃度でも検出したいので、普通より長い露出時間に変更して観察し、濃度の値を問題にしない定性分析器として使用しました。

4.

測定例1です。

去夏から2つの都市の住宅団地において、近隣で使う柔軟剤で体調不良になった人がありました。いくつかの医療機関で入院し精査しましたが原因不明でした。洗濯の柔軟剤を使うと調子が悪いことより、調査したところ、室内から高濃度のイソシアネートが検出されました。

また、もう1家族の例です。お示ししたデータの方ですが、合成香料アレルギーと診断された方です。家で測定をしたところ、VOCモニターによるTVOCと通常環境汚染物質4種類の濃度はこの棒グラフのようになりました。

その他の化合物合計の濃度に比べて、通常汚染物質のトルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレンが多い時、つまり自動車排気ガス汚染空気が主な時には、イソシアネート検出が少ないように見えます。

イソシアネート濃度が高い時に自覚症状が出るようでした。

この御家族は症状発現が同調しています。つまり、頭痛、鼻詰まり、咳などの症状出現が一人ではなく家族全員で生じる現象がみられていました。

5.

次に、測定例2として、農薬がイソシアネート発生源と思われる報告です。

田圃からの風通しがよい住宅地で、今年のゴールデンウィークにケムキーでのイソシアネートが最大7ppb、ほぼ常時4~2ppbと表示されました。この濃度は職業環境基準の5ppbを上回る濃度です。

一方、イソシアネートが数ppbと高い時間帯には、VOCモニターでトルエンなどの大気汚染物質濃度が極めて低い傾向がありました。つまり、イソシアネートが多い時間にはVOCモニターの大気汚染物質はほとんど検出されなくなり、TVOCも下がるというイソシアネートと反対の増減が観察されました。一方、咳や声ガレ、涙や朦朧感、倦怠感などの症状は、イソシアネートが高い時間帯だけに観察されました。

6.

茨城県のこの稲作地域は車通りから遠く離れており、普段はTVOCとかNOxは極めて少ないところでクロマトグラフは主としてトルエンなど普通大気汚染物質を示していました。しかし、田植えシーズンのゴールデンウィーク以来、クロマトグラフの形が変わってしまいました。

トルエンなど普通化合物が普段のように増えるのは夜間の傾向がありました。

7.

農薬や柔軟剤など薬や香りを長持ちさせるために徐放技術と言ってポリマーが使われています。例えば左の写真のようなイソシアネートのマイクロカプセル(いわゆるウレタンカプセル)で包むとか、右の図のように籠型の分子構造のシクロデキストリン分子を繋いだポリマーに吸収するとか。それらのポリマー原料としてイソシアネートを使うと性能が良いそうです。マイクロカプセルは3μ、シクロデキストリンは0.3ミクロン程度の大きさと言います。田植えシーズンに特定地方で広がったこと、飛来するイソシアネートが増えると普通のVOC汚染が減少することから、シクロデキストリンポリマーにトルエンなど普通大気汚染物質は吸着されるのではないかと考えています。また。これらのポリマーは海洋汚染物質として規制され始めたマイクロプラスチックにも該当します。

8.

シクロデキストリンまたはイソシアネートと農薬および徐放性のシクロデキストリンで検索した公開特許は、1995年頃から急に増え、2013年ごろから一段落しています。そろそろ生産と販売が本格化し始めたのではないでしょうか。

測定例1の柔軟剤の中でも香りをシクロデキストリンポリマーやイソシアネート・ウレタンカプセルで包むという特許が出ています。


9.

測定例3は家の新築工事現場の近隣に住んでいる方からの健康被害報告です。

新築現場から80mほど離れて他の家々の陰に隠れている住宅でイソシアネートのダイナミック測定した記録です。朝から工事が始まったのには気が付かずに窓を開けて昼にすごい咳の発作で救急搬送されました。後日、車で通りながら新築土台工事が始まっていたことが分かりました。VOCモニターとケムキーとを、現場から裏手に向いた窓の中に設置して、外の空気をダイナミック測定しました。

ケムキーでは連日のように朝から夕方までの工事時間にだけイソシアネートが記録されました。

10.

工事が終わりに近づいたころには、右のテープ記録のようにイソシアネート検出時間が少なくなりました。

イソシアネートが検出された時間にも点線で示すクロマトグラフのように、普通の汚染化合物もありました。イソシアネートが検出されない時間にも、種々な混合汚染があり、普通の汚染以外の化合物ピークもありました。


11

1.簡易クロマトグラフと毒性気体分析器でダイナミックな測定をすることで、変動する汚染化合物の挙動を把握し、患者の自覚症状と照らし合わせて、健康を傷害しうる化合物とその発生源の手掛かりが得られた。

2.ダイナミック測定で分かったように、汚染化合物濃度は著しく変動しているため、精密分析しても長時間の平均濃度や少ない回数では、健康影響を判断できないことが明らかとなった。また、低濃度で影響する毒性気体が増えて来たので、TVOCを安全性の目安には出来なくなったことが確かめられた。

3.通常汚染物質のトルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレンが多い時にはイソシアネート検出が少ない傾向がある。一方イソシアネートが高い時間帯にはVOCモニターの大気汚染物質はほとんど検出されない。更に、咳や声ガレ、涙や朦朧感、倦怠感などの症状は、イソシアネートが高い時間帯だけに観察された。

4.昔より職業性喘息の原因物質とだけ考えられていたイソシアネート類の種類が無限に増えている現状、標準試料もデータバンクも揃えられないため精密検査が行えない状況である。現在イソシアネートは工場生産されるウレタンなどのほかに、我々の生活の場に多量に入り込んできている。衣類、家屋、道路、ビルのほかにも今回報告した洗濯柔軟剤、農薬、食品、さらに医薬品までも使用されるに至っている。本来職業現場でしか観察できなかったイソシアネートが日常生活の場で測定できることは、我々健康に影響を与える環境問題とし注目すべきである。


第4章 高木基金の2016年度研究成果報告会で発表して

地域環境の大気中に、極めて危険な汚染が急速に拡大していることが、毒性気体分析器で見つかったのでお知らせします。  NPO化学物質による大気汚染から健康を守る会の津谷裕子です。  調べた発生源は、自宅ややや離れたところの建築材料と、産廃処理場と、住宅地の柔軟剤および多分新しく設計された農薬からの広範囲汚染です

昨年あたりから、また特に今年のゴールデンウィークからは、原因不明で具合が悪いということをかなり聞きます。  風邪にしては長引く軽い咳と、疲れやすさ、だるさと眩暈、目の周りが痒い、鼻水が出る、喉が痛い、胸が苦しい、動悸が起る等です。  汚染にあってすぐ症状が出る場合と、6時間以上してから症状が出る場合があります。 即時性反応、遅延性反応、両方出ることは両性反応と言います。即時的でないのは、原因を自覚し難いです。

白血球刺激試験という特別な検査でイソシアネートの1種などにアレルギー反応することが確かめられた人もいますが、たいていの検査では原因はよくわかりません。白血球遊走試験というのだけがアレルギー原因化学物質を確かめやすいことが分かってきましたが、検査してくれるところは新潟に一つあるだけです。

患者の体験からイソシアネートという合成樹脂原料が原因らしいので、どんな所で使っているのか、特許庁で特許出願を調べてみました。   5年ほど前に調べたところでは、 塗料、ゴム、繊維、繊維加工、接着剤、シール、コンクリート、アスファルトなどに使われていました。

ところが昨年から、徐放材とか包接材とかという聞きなれない言葉で、イソシアネートを使う新技術の応用開発が急速に拡大していることに気が付いて、どんな所で使い始めたか、また特許で調べてみました。 徐放・包接技術でイソシアネートを使う方法は、マイクロカプセルの被膜にするのと、吸収材料のシクロデキストリンをイソシアネートでつなぐのと、2通りあります。 香料、消臭剤、農薬その他に使っています。 蒸発しやすいそれらが何時までも乾かずにじわじわと効果を上げ続けるように、マイクロカプセルに包み込んだり、吸収材料の穴に詰め込んだりしておくためです。 イソシアネートは体にも反応しやすくて毒なように、材料原料としても反応しやすくて良い性能のものを作りやすいのです。

シクロデキストリンというのはトウモロコシ澱粉で無害ですが、1ミリの100万分の1以下の大きさなのでイソシアネート等合成樹脂原料でつないだシクロデキストリンポリマーとして、香り成分や農薬を詰め込んだり、悪臭を吸い込む消臭剤に使います。  テレビ広告などで、「この製品は天然のトウモロコシ成分を使っているから無害です。」といっていますが、確かにそれは無害ですが他に有害なイソシアネートを加えてシクロデキストリン・ポリマーとして使っているというその製造会社の特許については黙っています。 シクロデキストリン・イソシアネートと農薬とに関する特許が公開された年次を調べてみると、1995年まではほとんどなくて、そこから増え始めて2013年ごろに一段落したかな、という感じです。 特許になったのでそろそろ工場生産・市販され、今年のGWからの体調不良の原因かな?というところです。(使用した分析器の種類・仕様と調査対象の図は省略。全章参照)

分析機械で実際の汚染の様子を調べてみました。体調異変を感じる住宅の窓にビニールシートを張って、そこにテフロンパイプを通して分析器に空気を取り込んで分析し続け、汚染物質の変動を観察しています。分析器は、化合物全体の種類と濃度を全体的に捉える簡易クロマトグラフ、こういう形でパソコンに記録するものと、ごく薄い毒性ガスを検出する輸入分析器のケムキーという名前の物を使いました。ケムキーは、検査結果が色で分かる試薬をしみこませたテープを巻いたカセットからテープを引き出して、丸い穴から空気を一定時間 吹き付けて反応した色の濃さをレーザーで読み取るものです。テープは15分ごとに送り出されます。




さて、測定例ですが、屋根を塗り替えた家の室内で測ったものです。  塗装中は、クロマトグラフがこんなにも変動して、高濃度で沢山の種類の化合物が室内にも侵入してきたのが分かります。 工事の翌日には、こんなにも濃度が低くて、室内空気の変動がなく、化合物種類も少ないことが記録されていました。 室内に置いたケムキーのテープでは、工事時間だけイソシアネートが検出されて赤い丸で記録され、工事時間以外には反応がありませんでした。 

簡易クロマトグラフで記録された化合物合計濃度、TVOCというのですが、先ほどの記録で分かる工事時間だけは濃度が高いばかりでなくて、その後の5日目まで徐々に濃度が下がっていますから、屋根工事の影響は、その日だけでなくてしばらく続いているようです。






測定例2   別の住宅で昨年7月中旬、80m離れて他の家の陰になる地点に住宅新築が始まりました。 基礎工事の日に、それとは知らず窓を開けて昼寝していたので激しい喘息よう発作で病院に運ばれました。  このTVOCと有機溶剤成分の記録は、工事がだいぶ進んでからのもので、外装や内装の工程の頃のようです。有機溶媒の割合が多いです。低濃度の時と最高濃度では10倍以上の違いがあります。  祭日は少なく、作業日が高濃度です。夜の間の気温低下による濃度増加の他に、早朝の作業開始での増加、昼休みでの減少、夕方の増加と夜間の残留が認められます。

クロマトグラフで見ても、早朝4時と昼休み13時には点線のように濃度が低く、化合物種類を表すピークの数も少ないですが、作業時間が始まった8時と終わりの17時には濃度も種類も増えていて、建築工事による汚染だと分かります。 この付近は一帯の十宅地でその工事現場以外には何も発生源は考えられません

ケムキーで見ると、クロマトグラフでの工事時間にほぼ対応してイソシアネートが検出され、夜から早朝にかけてはイソシアネートは検出されませんでした。建築の外観が完成した12月頃にも、室内で時散発的にイソシアネートが検出されました。 その時は咳が出る、声が嗄れる、だるい、などの症状も対応しました。

    散発的にイソシアネートが検出される時のクロマトグラフはほとんど変化がなくて、体調に影響する空気汚染は、有毒化合物の分析でしか判断できず、汚染化合物合計濃度のTVOCなどは関係ないことが分かりました

 

今までの測定例2の工事現場と測定地点の関係は、こんな風に離れています。 測定器を設置したのは現場から反対側の窓の中です。 12月のケムキーは寝室でした。

室内汚染が室内で発生するのでなくて、屋外から侵入することが確かめられました。  シックハウス対策に、窓を開けて換気すればよいというのは、幸せだった昔の環境でのことです。  今は、自己責任で安全な空気を吸って健康を守ることが出来ません。 個人の健康に、社会的な対策が必要不可欠です。

次の測定例は、廃棄物処理施設です。 施設から50mで変動補調べています。  行政で精密分析をしてくださいました。 精密分析の日になると設備の修理で作業休止になるので何度もやり直しました。 今度こそは大丈夫だろうとサンプリングに行ってもらったのですが、朝まで高濃度だったTVOCがサンプリングに到着する頃には急減していたり、月曜にはサンプリングが終わるまでは低濃度で、その後では急上昇していました。クロマトグラフで見ても、点線で表した通常の時間には高濃度で検出できた化合物ピークも異常なものがありますが、サンプリングの時間には実線の赤のように濃度も化合物種類が激減していました。 連続測定でもしないと、環境汚染問題は把握できないことが確認されました。

ケムキーで調べたイソシアネートも、朝9時ごろにサンプリングに到着するまでは検出されていましたが、サンプリング中はなくて、夕方5時前にサンプリングが終えてから数時間して検出され始めました。そこでの浮遊粉塵を顕微鏡で見たら、赤や黄色、緑と鮮やかな粉塵でした。 焼却準備の破砕によって発生した粉塵を連想します。 この廃棄物処理施設内各地点でTVOCを調べた行政の分布図では、破砕施設室内とその塀の外では、測定値が9999と振切れていて、焼却施設や貯蔵施設の100倍以上の高濃度だというデータに対応しているのでしょう。

次の例は、隣からの柔軟剤で苦しいという人の室内で、イソシアネートが検出された例です。

玄関では少し薄いのですが、車の中も検出されました。別の住宅地に帰ってくるとほとんど検出されず、その室内では全くありません。その人のところから30kmほど離れた住宅地でも近所の柔軟剤で苦しい、と住民自身で分析しました。クロマトグラフでのTVOCが洗濯作業に関連して高濃度になることが多いというのです。 また、ケムキーでのイソシアネート検出濃度が高い時に、体調が苦しい時が多いというのです。 頭痛、のどの痛み、咳、鼻汁、指が痛い、心臓動悸、目が痛い、鼻づまり、胸が痛い、体がだるい、痒い、など多彩な症状です。

ケムキーテープで見る家の外のイソシアネート濃度の変動です。 夜に減少することがありますが、天気の良い日曜には途切れなく高濃度で汚染が続いています。ここでは家の中ではほとんど検出されません。 ときどきうっすらと検出されるだけです。家の外では、ケムキーのシアン化水素のテープでも反応がありました。 柔軟剤の香料として爽やかなニトリルが良い、という洗剤メーカーの特許がありますから、そのニトリルが分解したものかもしれません。

クロマトグラフは、従来知られていた普通の都市大気の汚染とは違って、自動車の未燃燃料や工事の有機溶媒とは違う異常な化合物が高濃度に検出されました。 それは、柔軟剤からのクロマトグラフでも検出されたものと同じでした。

柔軟剤を水で希釈し、日向で鉄クリップを入れて撹拌し、沪紙に染ませて容器内で日に当てながらケムキーで測定したところ、市販の柔軟剤と消臭剤からイソシアネートを検出したものもありました。 柔軟剤が入らない洗剤からは検出されませんでした。(イソシアネートマイクロカプセルとシクロデキストリンの図は省略。前章参照)。

柔軟剤の香り成分を長持ちさせるためにイソシアネートのマイクロカプセルに包む特許と研究論文があります。

そうして選択した繊維には、左の写真のようにイソシアネートカプセルが粘着しています。 これを着て動くと、イソシアネートカプセルが破れて香りがするというわけです。 右の図は、シクロデキストリンというトウモロコシの澱粉をイソシアネートでつないでシクロデキストリン・イソシアネート・ポリマーとして、シクロデキストリン分子のすり鉢のような穴に香料や農薬やビタミンを詰め込んだり、悪臭を吸い込む新しい技術製品の図です。柔軟剤に使う特許も農薬に使う特許も出ています。最後の例は、原因不明の高濃度イソシアネート飛来の調査結果です。 今年のGW直前から発生し始めました。 一日中ほとんど出ていましたが、6月20日ごろになって減ってきました。木曜と金曜が一番きれいで、日曜が一番汚いです。 この図を測定した5月の日には、夜中のほんの少しの時間だけ赤矢印のようにイソシアネートが少なく、 その時TVOCはむしろ高かったのです。 青→のようなイソシアネートが顕著な体調が酷く悪い時間にはTVOCがむしろ少なかったのです。青→のイソシアネートが高く検出された時のクロマトグラムは、青い実線のように、TVOCも低かったですが普通にある未燃ガソリン成分のトルエンなどのピークが低くなっています。 建築汚染の時には、イソシアネートにTVOC増大が伴いましたが、今度の原因不明の大気汚染は逆です。 ひとつ考えられることは、イソシアネートで繋いだシクロデキストリンポリマーの飛散によりVOCの吸着、減少という事態が起きている可能性です。 GWから始まる農繁期と一致したのもその成果と思われます。農作業をする人も、農薬を売る人も危険和知らないで扱っているかもしれません。 事実を確かめて、皆の健康を守る必要があると痛切に心配しています。 皆様のお力添えをお願いします。終わりにまとめて言えば、このようになります。

第5章 農薬も徐放製品に変わった(柔軟剤・香料と同様なカプセル化・イソシアネートを検出)

香りばかりではない「徐放剤ポリマー」の恐怖! 香りに加えた元凶ポリマー

1.自分たちで調べたらビックリ!

欧米で周知の強毒物質利用特許の数々

隣近所からの柔軟剤で苦しい、病院に行って病気(呼吸器、心臓、皮膚、眼、神経、アレルギー)だと診断された。人が香りを付けて訪ねてくると苦しい、他人の衣類と一緒に洗濯したら自分の着物に香りが付いて取れなくて苦しい、乗り物の中で香りを付けた人がいると倒れそう、ハイキングに行った山道で前に通った人の香りで頭痛、最近まで自分だけ発症したが最近は家族も発症して重症になった、隣家から柔軟剤攻撃されて苦しいのに原因が認められず不定愁訴や中枢神経症状で診断がつかずに精神科に入院した、・・・と、古くから人類が愛用していた香料からは信じられない激しい被害の話しが国内のあちこちから湧き上がってきました。 
 これらの呼吸器と広範なアレルギー症状はイソシアネートと関係することが分かってきたので、VOC研では分析で確認するために欧米で定評があり公的機関で推奨されている呈色試験紙タイプの連続分析器を用意していました。まさか日用品の柔軟剤にはイソシアネートなんか入っているとは思いませんでしたが、他の発生源がありはしないかと、柔軟剤で苦しいという人の地域と室内で分析したところ、「隣家で柔軟剤を吹き付ける時に換気扇から室内に入ってきて苦しい」という人のところでは室内で、「よその家で柔軟剤を使うので窓が開けられない」という人のところでは玄関の前で、イソシアネートが検出されました(2ppbよりは低濃度)。柔軟剤以外の原因だろうと、他の発生源を3km四方で調べてもらいましたが見当たりませんでした。そこで市販の柔軟剤を薄めて沪()紙(1cm2)にしませて蒸気を分析したところバッチリとイソシアネートが検出されました。6種類の柔軟剤のうちの5種類から、また消臭スプレー1種からと柔軟剤入りの洗剤からイソシアネートが検出されました。香料入りの洗剤1種からは検出されませんでした。
 イソシアネートの健康影響については以前からお知らせしていますのでご存知だと思います。かねてから欧米では「特段に発症者が多くて、職業性喘息の主原因。許容濃度はトルエンの1万分の1」とされていましたが、

最近は消費者環境へのイソシアネート用途が広がってきたことで一段と対策を強めて被害を防ごうと躍起になっている注目化合物で、窒素系ポリマーの原料であり、ポリマーから分解して出てくることもある化合物です。全身毒性、中枢神経毒性、呼吸器感作毒性です。過敏性を生じやすく、ひとたび過敏性を発症するとその他の物にも過敏になる可能性が強いものです。  重症被害者の一人に、昔の香水2種類で手を濡らしてみましたが「なんともありませんよ」ということでした。柔軟剤被害を感じる彼ら数人は、匂いがきついトイレ消臭剤の大瓶があっても「なんともない」けれどもゼリータイプの良い匂いの消臭剤では酷く具合が悪い、ということでした。

 

2.昔の香りはエチルアルコールで薄めたもの、今はポリマーで捏()ねたもの

去年夏ごろまでは、「へえ、そんなことあるの?」と構えていた私自身も、昨年暮れ近くからひしひしと体験するようになりました。毎朝、交代で5人のヘルパーさんが来てくれますが、「おはよう」と戸を開ける途端にゲホゲホゲホと咳が出はじめ、声が嗄れてぐったりしてベッドに倒れてしまいます。寒くてもベッド脇の引き戸を全開にして、ヘルパーさんに「近寄らないでね」と頼むのですが、彼女らが帰った後の部屋に行くと香りが残っていなくても声が嗄れ、咳が出てぐったりします。彼女たちは日によって香りが違い、この頃は以前のようなむかむかするラズベリー系ではなくて、さわやかな清涼感もあるバラに似た快い香りですが、香りがなくても咳と声嗄れなどが起る日もあるし、何も感じなくて無毒の日もあるのです。「今日は苦しーい」という日には、「ここに来る前に介助した家でついたのでしょう」とか言います。上着を脱いで一回り駆けてきてくれると格段に汚れが減っています。咳や声嗄れはきれいな空気でたちまち治るので(長い間ぐったりしているけれど)誰が見ても原因と症状の関係が明白なので理解してもらえます。

前節の被害例や私の毎日の体験が示すような、しつこく消えないで遠くまで運ばれてとんでもなく広いところまで香り続けるなんて、昔から人が愛好して来た香料には無いものでした。日本には香りを嗜む文化もありましたが、香木を焚きしめて着物に香りをつけても、その移り香が付いていれば浮気の証拠になるぐらいに普通には人づてに遠くまで運ばれないものでした。昭和の終わりまでの資生堂などの香水をたっぷりつけても、自動車で隣席だった人が移されたということは体験しませんでした。

 被害者達が手分けして調べて分かったのですが、香り成分をポリマーで包むという加工をしてあるので、香りは揮発し難くて長い間少しずつ香りつづけられるのです。洗濯機で水とかき回したり乾燥機で振り回して加熱脱水したりしても洗濯物から落とされないようにべったりと接着して取れないのです。

 乾かして着たときにゴワゴワ、チクチクしないように適当に柔らかくて、着て動いて擦れれば少しずつ香り成分を揮発するように破れるのです。
 こういうのを徐放剤と言って、どんな材料をどんな使い方で徐放させればよいかということが、徐放技術という研究課題として近年盛んになっていました。

(文献1:徐放技術:http://www.trcbook.com/bio/joho.html,  2016 apr.1,徐放技術と用途展開,国会図書館)
                         

3.ポリマーって何? シクロデキストリンポリマーは無害?

柔軟剤に関しては、繊維に粘りついて取れないようにしっかり接着するポリマーを選んで、香料を包み込む作業方法を確かめるのが課題のようです。しかしそのポリマーの健康影響を調べているかどうかあまり問題にされず、皮膚バッチテストをしたというチラッと書いてあるのが見つかっただけです。(↙)今日ホーマックの売り場で微香性消臭剤加工の繊維製品を見つけました。カウンターの店員にその話をして「仕入れ係とメーカーに注意してほしい」と言いましたらとても熱心にメモを取りながら聞いてくれて「え?ポリマーって一種類じゃなくて幾つもあるのですか?」という質問でした。徐放剤に使えるポリマーもいくつかの種類があります。また、徐放技術として包み込むスタイルにもいくつかの種類があります。 
 カプセル型と言って魚の卵のイクラのように、柔らかいポリマーで香料を包んだ球にする方法があります。これにはイソシアネートが好適のようです。イソシアネートは接着性も良いので繊維に付着しやすいという点でも都合がよいし、いろいろな化合物と馴染みやすいし、重合しやすいので原料として香料と掻き混ぜながらポリマー(分子が鎖状などに長く多数結びついて(重合して)絡み合った材料になったもの)になり易いからです。

(図1)(文献2:) 

 

 

                                    

図1a 水懸濁液中の香料を包んだイソシアネートカプセル(左)と繊維に付着したカプセル(右)

(水中撹拌で油性香料をイソシアネートで取巻いたコロイドとし、重合剤を加えて80℃でイソシアネートをウレタンポリマーや尿素ポリマーで香料を包んだカプセルにする。)

 

 

 

 

図1b  ウレタンポリマーと尿素ポリマーの単分子(モノマー)

 


 ウレタン




 尿素  

イソシアネート(MDI)+重合剤(HYD

尿素

   CH3   CH3   CH3        CH3

   |    |             

CH3SiO――SiOSiO――――Si―イソシアネート

     |    |              

   CH3   CH3   イソシアネート  n   CH3

図2 シリコン樹脂の分子構造,イソシアネートを含む例

 

シリコンポリマーのカプセルを作ることもありますが、シリコンの主な成分のケイ素と酸素に炭化水素や水素がついた普通の無毒なシリコン樹脂では化学繊維への接着が弱いので、イソシアネート分子を組み込んだ改質シリコンを少なくとも一部分に使うと良い成績です。硬化剤とか重合剤とか架橋剤とかという形でシリコン樹脂の一部に使う方法もあります。(図2:シリコン樹脂の種々な分子構造の図や使い方が不便ですが性能は悪くない接着剤としても有用なエポキシ樹脂も徐放剤に使うことがあります。エポキシ樹脂にイソシアネートを硬化剤や架橋剤として使うこともあります。(図3 架橋剤にイソシアネートを使ったエポキシ樹脂)                         

図3 架橋剤にイソシアネートを使ったエポキシ樹脂

 

 

シリコンポリマーのカプセルを作ることもありますが、シリコンの主な成分のケイ素と酸素に炭化水素や水素がついた普通の無毒なシリコン樹脂では化学繊維への接着が弱いので、イソシアネート分子を組み込んだ改質シリコンを少なくとも一部分に使うと良い成績です。硬化剤とか重合剤とか架橋剤とかという形でシリコン樹脂の一部に使う方法もあります。(図2:シリコン樹脂の種々な分子構造の図

 架橋剤にモノクロロトリアジンを使ったシクロデキストリンポリマーが、工業化されたシクロデキストリンポリマーとして販路を広げています。(図4)(文献3:参考技術単行本・シクロデキストリン:CMC出版,シクロデキストリンの応用技術,2008.

シクロデキストリンポリマーという徐放剤の作り方も最近の流行技術です。シクロデキストリンというのはトウモロコシの澱粉の一種ですから無毒なもので、その分子は籠型になっていて中に他の分子を取り込むことができる形です。包接分子と呼んでいます。籠の中に香りの分子を取り込んでいれば香りの徐放剤になりますし、殻のままでは悪臭分子を吸い込む消臭剤になります。ファブリースではこのシクロデキストリンを消臭剤として使っているわけですが、バラバラの分子では作業し難いのでポリマーで結び付けてシクロデキストリンポリマーとしています。この時のポリマーの使い方は架橋剤と呼ばれる使い方の1種です。イソシアネートを架橋剤とするシクロデキストリンポリマーの開発研究報告もあります。(文献2:シクロデキストリンイソシアネートポリマー:https://www.jstage.go.jp/article/fiber/66/6/66 6 141/ …2016/4/1 山本孝o,包接化合物固定化技術の開発とその加工プロセスの実用化-シクロデキストリン固定化技術によるスキンケア加工費製品の開発)

 

(a)

(b)

図4 シクロデキストリンポリマー,

((a)イソシアネートを架橋剤にした例,(b)モノクロロトリアジンを架橋剤にした例。)





ポリマーはこのように色々な種類があり、また同じ名前のポリマーでもその成分構造は種々様々に工夫できますが、さらに複雑なことにポリマーは変質して原料と同じ小さい分子に戻ったり原料とは違う種類の小さい分子に変わったりします。有機化合物というのが炭素と水素4個でできたメタンを元に編み上げられた千変万化の化合物群だという成り立ちによって、わずかな環境条件によって容易に変化し得る予測困難な性質を持っています。モノクロロトリアジンも有機物なので変化しやすく、酸素がある雰囲気で少し温度が上がると3個のイソシアネートに分解できます。着物について動く度に擦られると温度が上がらなくてもトライボロジー反応というもので分解することは間違いなく、とうぜんイソシアネートも生じるでしょう

 

4.柔軟剤ばかりか着物にまでいろいろな用途の徐放性で売り出す計画、農薬にも使われ始めたもよう

シクロデキストリンポリマーに代表される徐放技術は、単に柔軟剤の香料を長持ちさせる用途ばかりではなく、沢山の用途が期待されています。(図5 シクロデキストリンを利用した香料徐放と消臭)

徐放剤の用途は、次のように私達を取り巻くほとんどすべての分野で開発がすすめられ、沢山の製品特許が日ごと新たに出願されています。ネットで調べた徐放剤応用例は次のようです。それらの製品の多くは(例えば柔軟剤など)は成分表示の義務がないので、徐放剤として無害な化合物だけを使用しているかどうか確かめようもありません。化学製品の成分や製造過程で使用する化合物はメーカーにとって重要な秘密なのです。徐放剤の目的と用途によっては無害なものを使っているでしょうが、新しい化学物質の有害性は思った以上に国内の開発技術者・学者・医者に知られていないようで、「皮膚に悪いホルムアルデヒドを使わないで済むようにイソシアネート利用の徐放剤を使っている」と自慢している大学教授のネットを見かけたりしています。イソシアネートは皮膚・粘膜に刺激性です。

芳香消臭剤(ゼリー型・柔軟剤・洗剤・スプレー)、文房具、日用品(マスク・紙おむつパット・トイレットペーパー)、化粧品(ドライシャンプー・高級シャンプー・口紅・美容パック・化粧クリーム・保湿クリーム・コロン・冷却シート)、繊維加工(香り・ビタミン・殺菌・肥満防止・温感・森林浴・靴中敷)介護用品、医薬品(静脈注射・筋注射・点眼剤・舌下錠・錠剤・乗り物酔い・狭心発作・緑内障・制癌・抗菌メッキ・コエンザイムQ10・α-リポ酸・アスタキサンチン・クルクミン・DHA)、農薬(殺菌・殺虫・除草・忌避・誘因)、肥料、機械部品(含油軸受・ブレーキ・クラッチ・すべり案内面、防錆紙)、建築材料(塗料・接着剤・セメント仕上げ剤)にまで! すでに市販普及が開始されています。

私たちは着物にビタミンや肥満防止など欲しくないので、体調に影響がないかどうかだけを確認したものが欲しいのです! しかし、例えば繊維にビタミンをシクロデキストリン-イソシアネートポリマー加工したものについても、「外部機関に委託して皮膚貼付けテスト・バッチテストした。」としか書いてないのです。他には健康影響を調べたという報告を見ていません。皮膚よりも吸入の方が体内取り込み量は格段に多く(1日20kg)、全身臓器への影響も大きいはずです。厳しい臨床試験にも合格した新しくて効果的な投薬が、実際に市販されて普及したところ重大な被害が頻発したという例は、戦後の日本でもたびたびありました。サリドマイド(クロルプロマジン)もスモン(キノホルム)クロロキン、塩酸イリノテカン、ソリブジン、薬害肝炎、小柴胡湯、イレッサ-ティーブンス・ジョンソン症候群、タミフル、など。

図5 シクロデキストリンを利用した香料徐放と消臭,(底が抜けたバケツのような巨大な分子形状のシクロデキストリンは香料の徐放剤としても消臭剤としても利用できる。)(シクロデキストリンの大きさは1ミクロンの約千分の1、柔軟剤の香り

徐放剤にしたシクロデキストリンポリマーの大きさは約0.3

ミクロン・0.0003mm前後)



それにシクロデキストリンはナノマテリアルです。また、ポリマー粒子はマイクロプラスチックです(地球規模の水環境汚染が問題になってオバマ大統領が「マイクロプラスチック使用禁止令」に署名したばかりのものです)。

5.アジア各国へも輸出は規制されているのに!

輸出入を主な仕事にしている会社の社内化学物質安全規定を見ました。

アジアの諸国に輸出するにもそれぞれの国は厳しい安全基準があるのですね。中国に輸出するにもイソシアネートを含むものは1トン以下の少量でも健康安全性の検査を通らないとならないのですね。しかも衣類も靴も日用品もすべての製品は、1kgから1mg、つまり100万分の1のイソシアネートが抽出されてはならないし、さらに300℃での抽出検査まで通らないと売れないということを知りました。(文献4:リーバイ・ストラウス社,2013nov,規制物質リスト(RSL-Levi Strausshttp://levistrauss.com/wp-content/_uploads/2014/03/2013-November-RSL-Japanese.pdf

    日本では、着物などは勿論の事、日用品や化粧品や建設材料さえ、製品に含まれるイソシアネートを調べて取引を規制する等聞いたこともありません。アジアの国に輸出できないものを日本国民には売っているのでしょうか。
 イソシアネートはひとたび発症すると過敏になり、如何なる低濃度でも再発し、次第に回復できなくなって死に至る、という全身毒性、呼吸器などアレルギー毒性で、大部分の職業喘息の原因として知られています。塗装作業で急死した例も知られています。

種類が多いのですが、どんなイソシアネートも同様な毒性なので、毒として働く分子の端の部分-NCO特性基の合計量が重要とされていますが、日本では合計量を分析できる試薬さえ輸入してないのです。だからどんなに優秀な研究機関に委託しても分析で安全かどうか確かめることができません。徐放剤開発研究では赤外吸収スペクトルでイソシアネ ート特性基-NCOを調べているので全体の様子はわかりますが、赤外吸収スペクトルでは感度が低く、“どんなに薄くても再発する”という既往症患者の安全を確認できる感度はありません。日本に輸入されはじめている呈色試薬テープ分析法によるケムキー(ハネウェル社製・古くから欧米の文献や政府機関で紹介されている方式)が作業環境許容濃度近くまでの濃度でも検出できます(VOC研で貸し出している)。しかしタイ国においても、2015年度に全種イソシアネート合計濃度での作業環境規制を決めました。日本ではイソシアネートについて国際的にこれほど問題になっている危険物質で、環境に広がり始めたので健康影響に注意すべきだとの啓発さえしていていないので、身近な生活用品にまで急速に用途が広がっています。

有機化合物はどの種類も炭素と水素のメタン分子を出発点として組み合わせた構造を主にしていて、温度や環境の少しの変動や外力の作用で別種のものに化学変化しやすいのです。ですから安全そうな化合物からも使用中に分解して毒性化合物を発生する可能性さえ少なくないのです。新しく開発された製品の中の種々な化合物の混合の中で、使用中にどんなことが起るかも確かめなければ安全とは言えません。

経済効果、便利さ、快適さを競うばかりに、安全性確認をおざなりにした新製品の開発販売は不安です。柔軟剤で苦しいという冒頭の被害者達の実在は、それが単なる危惧ではないことを示しています。

どうかせめて、アジアの国々と同程度には、市販製品の健康安全性を確かめる規制をしてほしいと切望せずにはいられません。消費者の皆さんは、自主的に情報を探して、安全が確認できないものは使用しないほうが良いでしょう。 

 

会員募集

支援会員  入会費1,000円、年会費2,000円(会運営権利なし)

正会員   入会費5,000円 年会費5,000円(会運営権利有り)

賛助会員  入会費10,000円 年会費10,000

 

第6章 外国では    

塗料の広告なのですが、

イソシアネートを含まない、といことがセールスポイントの第一番目に掲げられています。

 

これほど消費者にイソシアネートが特段に有害だということが知れ渡っているのですね。関係機関で熱心に啓発したのでしょう。

 

日本では、イソシアネートの塗料や接着剤を使っている作業者も、イソシアネートという名前さえ知らないですよ。






香料を長持ちさせるために包むポリウレタン製のマイクロカプセルには、原料のイソシアネートをポリマー化して残留イソシアネートの濃度を分析で検出できない程度に減らすには、いろいろな処理を重ねなくてはならないようです。


ポリマー化しても揮発しやすくて有毒なままのイソシアネート単量体は、これほど残留しやすくて、残留を減らすのは大変のようです。一方、アメリカ環境保護局でも、ひとたびイソシアネートで過敏症に達した人は、その後はいかに低濃度のイソシアネートでも(分析限界以下でも)症状再発すると警告したいます。



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