体調と化学物質のダイナミック測定で原因診断に


私共の環境は、年々新しく開発、大量生産された有機材料に取り巻かれ、
それらで体調不良になっているのに原因物質究明が行われずに放置されています。

今回新しく導入した化学物質のダイナミックな観察、毒性気体の環境汚染状況を調べ、
原因物質と発生源を推定して診断と対策に役立てることを考えました。

体調不良者からの聞き取りで調査場所を決め経時的な測定をしました

測定器は携帯型簡易クロマトグラフ比色式毒性気体分析器です。

下の写真のように測定器を室内に置いて、窓の隙間に貼ったビニルシートの穴を通して、メーカー指定の太さと長さのテフロン製チューブで外の空気をサンプリングしました。

携帯型簡易クロマトグラフはJMS社のVOCモニターで、この図のような本体とパソコン画面で、10分間のサンプリングと分析とクリーニングの操作を1時間ごとに繰り返して、パソコン上に揮発性有機化合物すなわちVOCのダイナミックな挙動をエクセルデータとして記録するものです。

比色式毒性気体分析器は比色試験テープを巻き取りながら経時的測定が可能なケムキーという分析器です。
吸気口から導入したサンプル空気を比色テープに一定時間吹き付けて、
変色の程度をレーザーで読み取って濃度をppb単位で表示するものです。

目的の化合物の種類によって、テープ種類と露出時間を決めます。

比色テープはいくつかの毒性気体に対応するものがありますが、
今回我々は多くの場所で検出されたイソシアネートについてご紹介します。
データとしては作業環境管理濃度よりやや低い濃度から表示できますが、
この研究では環境で健康影響する薄い濃度でも検出したいので、
普通より長い露出時間に変更して観察し、濃度の値を問題にしない定性分析器として使用しました。

測定例1です。

去夏から2つの都市の住宅団地において、近隣で使う柔軟剤で体調不良になった方がいらっしいました。
いくつかの医療機関で入院し精査しましたが原因不明でした。
洗濯の柔軟剤を使うと調子が悪いことより、調査したところ、
室内から高濃度のイソシアネートが検出されました。

また、もう1家族の例です。お示ししたデータの方ですが、
合成香料アレルギーと診断された方です。家で測定をしたところ、
VOCモニターによるTVOCと通常環境汚染物質4種類の濃度はこの棒グラフのようになりました。

その他の化合物合計の濃度に比べて、通常汚染物質のトルエン、キシレン、
エチルベンゼン、スチレンが多い時、つまり自動車排気ガス汚染空気が主な時には、
イソシアネート検出が少ないように見えます。

イソシアネート濃度が高い時に自覚症状が出るようでした。

この御家族は症状発現が同調しています。つまり、頭痛、鼻詰まり、
咳などの症状出現が一人ではなく家族全員で生じる現象がみられていました。

 

次に、測定例2として、農薬がイソシアネート発生源と思われる報告です。

田圃からの風通しがよい住宅地で、今年のゴールデンウィークに
ケムキーでのイソシアネートが最大7ppb、ほぼ常時4~2ppbと表示されました。
この濃度は職業環境基準の5ppbを上回る濃度です。

一方、イソシアネートが数ppbと高い時間帯には、
VOCモニターでトルエンなどの大気汚染物質濃度が極めて低い傾向がありました。
つまり、イソシアネートが多い時間には
VOCモニターの大気汚染物質は
ほとんど検出されなくなり、TVOCも下がるというイソシアネートと
反対の増減が観察されました。一方、咳や声ガレ、涙や朦朧感、倦怠感などの症状は、
イソシアネートが高い時間帯だけに観察されました。

 

茨城県のこの稲作地域は車通りから遠く離れており、
普段はTVOCとかNOxは極めて少ないところでクロマトグラフは
主としてトルエンなど普通大気汚染物質を示していました。
しかし、田植えシーズンのゴールデンウィーク以来、
クロマトグラフの形が変わってしまいました。

トルエンなど普通化合物が普段のように増えるのは夜間の傾向がありました。

農薬や柔軟剤など薬や香りを長持ちさせるために徐放技術と言って
ポリマーが使われています。例えば左の写真のようなイソシアネートの
マイクロカプセル(いわゆるウレタンカプセル)で包むとか、右の図のように
籠型の分子構造のシクロデキストリン分子を繋いだポリマーに吸収するとか。
それらのポリマー原料としてイソシアネートを使うと性能が良いそうです。
マイクロカプセルは3μ、シクロデキストリンは0.3ミクロン程度の大きさと言います。
田植えシーズンに特定地方で広がったこと、飛来するイソシアネートが増えると
普通のVOC汚染が減少することから、シクロデキストリンポリマーに
トルエンなど普通大気汚染物質は吸着されるのではないかと考えています。
また。これらのポリマーは海洋汚染物質として規制され始めたマイクロプラスチックにも該当します。

シクロデキストリンまたはイソシアネートと農薬および徐放性のシクロデキストリンで
検索した公開特許は、1995年頃から急に増え、2013年ごろから一段落しています。
そろそろ生産と販売が本格化し始めたのではないでしょうか。

測定例1の柔軟剤の中でも香りをシクロデキストリンポリマーや
イソシアネート・ウレタンカプセルで包むという特許が出ています。

測定例3は家の新築工事現場の近隣に住んでいる方からの健康被害報告です。

新築現場から80mほど離れて他の家々の陰に隠れている住宅でイソシアネートの
ダイナミック測定した記録です。朝から工事が始まったのには気が付かずに窓を開けて
昼にすごい咳の発作で救急搬送されました。後日、車で通りながら新築土台工事が
始まっていたことが分かりました。VOCモニターとケムキーとを、
現場から裏手に向いた窓の中に設置して、外の空気をダイナミック測定しました。

ケムキーでは連日のように朝から夕方までの工事時間にだけイソシアネートが記録されました。

工事が終わりに近づいたころには、右のテープ記録のように
イソシアネート検出時間が少なくなりました。

イソシアネートが検出された時間にも点線で示すクロマトグラフのように、
普通の汚染化合物もありました。イソシアネートが検出されない時間にも、
種々な混合汚染があり、普通の汚染以外の化合物ピークもありました。

1.簡易クロマトグラフと毒性気体分析器でダイナミックな測定をすることで、
変動する汚染化合物の挙動を把握し、患者の自覚症状と照らし合わせて、
健康を傷害しうる化合物とその発生源の手掛かりが得られた。

2.ダイナミック測定で分かったように、汚染化合物濃度は著しく変動しているため、
精密分析しても長時間の平均濃度や少ない回数では、健康影響を判断できないことが明らかとなった。
また、低濃度で影響する毒性気体が増えて来たので、
TVOCを安全性の目安には出来なくなったことが確かめられた。

3.通常汚染物質のトルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレンが多い時には
イソシアネート検出が少ない傾向がある。一方イソシアネートが高い時間帯には
VOCモニターの大気汚染物質はほとんど検出されない。更に、咳や声ガレ、涙や朦朧感、
倦怠感などの症状は、イソシアネートが高い時間帯だけに観察された。

4.昔より職業性喘息の原因物質とだけ考えられていたイソシアネート類の種類が無限に増えている現状、
標準試料もデータバンクも揃えられないため精密検査が行えない状況である。
現在イソシアネートは工場生産されるウレタンなどのほかに、
我々の生活の場に多量に入り込んできている。衣類、家屋、道路、ビルのほかにも今回報告した洗濯柔軟剤、
農薬、食品、さらに医薬品までも使用されるに至っている。
本来職業現場でしか観察できなかったイソシアネートが日常生活の場で測定できることは、
我々健康に影響を与える環境問題とし注目すべきである。










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